風のファルク

 
第二章 その12 キャッツアイ
 
 

室町幕府クランは個々の繋がりがクラスを越えて深い。
エルフはライラエさん以外、ほとんど見かけないが、ナイト同士Wiz同士
そしてナイト〜Wiz間での交流に壁が低い。
誰かが必要とするだろうものは、情報であれアイテムであれ、自発的に持ち寄り
クラン全体の底上げを「あたりまえ」に行なう。
と、同時に暗黙の了解事項
「自力で育て」
クランに頼ろうとする以前に、クランに頼られる存在を、皆が目指す。
その中でお互いが、お互いを認め合っていく。
私には、快い潔さに思えた。
自然、何人かでPTを組んで狩りに行くことは少ない。
単独で行動しながら、クラチャで連携していく。
激励や情報より、ふざけ合いや掛け合いが楽しい。
クランハントは、前回からの自分の成長のお披露目を兼ねるように思えた。
あやさんは何処とも想像できない場所から、華やかな報告を入れてくる。
Daiyamonde君は、私たちの知らない友人と行動している。
まっちゃん、Hoichiさん、私もそれぞれ自分の思うところに散っている。
そんな、ある晩。
何となく物憂い気分で狩りを切り上げ、軒下に出向く。
竹流さんとライラエさんが、じゃれている。
通称【夫婦漫才】
微笑ましい日常。
あやさんが疲れ切って帰ってくる。
汗が光り、流れている。
張りつめた緊張が、流れて出していくよう。
夫婦漫才に茶々を入れながら、あやさんのアドバイスをもらう。
「ライカン一家はね、・・・」
「バシリスクはね、・・・」
丁寧に教えてくれるのだが、今の私では犬連れでも相手に出来ない敵ばかり。
それでもあやさんの一言、一言を飲み込もうとした。
ふと、会話の流れが乱れた。
夫婦漫才の声が、刺々しい。
ライラエさんが武器を持ちだし、魔法の詠唱を始める。
竹流さんが武装し、背後の小屋入り口に移動する。
ライラエさんが引き込まれるように近寄った時、竹流さんが攻撃!
受け流して、ライラエさんの反撃。
剣が切り結び、攻撃魔法が飛ぶ。
二人とも手練(てだ)れだから、致命傷はないものの、半分マジモード。
「女性に剣を向けるとは!」
素手のまま、割り込む。
ライラエさんは引いたが、竹流さんは矛先をこちらに向けた。
様々な魔法と共に、研ぎ澄まされた剣技が打ち込まれる。
何かに絡みつかれたかのように、うまく動けない。
どんどんHPが削られる。
「見たか!プリだって、このくらいはできるんだ!」
竹流さんの雄叫びは、誰に向けたものなのか?

間違いなくクリティカルするだろう一撃が、繰り出された。
急に、身体が自由になる。
切っ先を掠(かす)めて、体(たい)を捻る。
流れにまかせて、拳を突き出す。
まともに竹流さんの顔面を打ち抜いてしまった!
吹き飛び、小屋の柱に激突させてしまった。
ライラエさんが走り寄る。
「馬鹿!やり過ぎよ!加減が分からないの?!」
気絶した竹流さんを抱き抱え、怒りの目線で私を貫く。
「素手だもの、まさか、こんな・・」
弁解する私の背後に、いつからいたのか、あやさんが立っていた。
「自分ばっかり魔法使うから、キャンセルかけてあげたのよ」
高位のWizが味方にいるのと、敵側に立つので、こうも違うのか。
呆然と、つぶやく。
「私、戦争に、行くわ」
「ファルクさん、戦争するの?」
ライラエさんが汚らわし気に、同時に不安げに尋ねる。
「竹流さんが、行け、言うなら、戦争行く」
「・・・」
「やっぱり、私・・・殺戮マシーンなんだよ・・。どう言ってみても」
「僕はそんなこと、言わないから、忘れなよ」
息を吹き返した竹流さんが、言う。
しかし、その瞳は何かの決意を秘めていた。

次の晩は、さすがに竹流さんの顔を見られなかった。
@「今日は休暇にします」
@「あい、どうした?」
@「f1.ファルクはゲームをしていません」
@「いいけどね^^;。どこに行くの?」
@「ボーっとしてきます」
@「温泉?」
@「島めぐり^^」
剣を抜かずに、TIを巡る。
向かってこないモンスターは、完全無視。
と、魔法師ゲレンの屋敷前から悲鳴が聞こえた。
行ってみると若いWizさん達が、蜘蛛に閉じこめられている。
「助けて下さい!」
「仲間が、まだ外に!」
剣を抜き、蜘蛛の不意をついて切り倒す。
「・・瞬殺だ・・」
「助かりました」
「私たちまだ、弱々で」
よほど、一緒に廻ろうか、と言いかけた。
(・・・・・・・だめだTT)
言えなかった。
「・・気を付けて」
無理矢理言葉を絞り出し、剣を仕舞うと、3人を残して森へ。
島を一周し、グンター師の屋敷に立ち寄る。
グンター師はジロリ、と一瞥(いちべつ)くれただけで、声も掛けてはくれない。
一礼して、外に出る。
TICに潜る。
2Fの、普段行かない骨たちの棲処(すみか)を抜ける。
隠された部屋を見つけだし、骨の軍隊と切り結ぶ。
心晴れないまま、TIの町に戻った。

「やっと帰ってきた^^」
広場の真ん中に竹流さんが立っていた。
「・・こんばんは」
「何か見つかった?」
「・・いえ」
伏し目のままの私に、竹流さんが言葉を続ける。
「これ、どう思う?」
「?」
「新しい、クランのマーク^^。みんなの声を聞きたくて」
「なんです、これ?」
「なんに見える?」
それは銀色バックに所々黒い線、緑色の傾(かし)いだ楕円形の一端から、
やはり緑色の線が下に下がっている。
「・・・お茶の葉?」
「え?どして?」
見たままを説明すると、「あぅ・・」と言って黙ってしまった。
「本当は、なんです?」
「・・猫の目、だよ」
言われて見直すと、なるほど猫の顔(ただし半分)だ。
「なんで、片目猫?」
「未来を見つめるキャッツアイ、のつもりだったの。ライラエにはますます室町幕府
ってクラン名から離れたって笑われたけど^^;」
Hoichiさんが来た。
「用ってなんです?」
「紹介したい人が・・まだ来ないかな?」
「Hoichiさん、新しいクランマークだって。何に見える?」
Hoichiさんは、しばらく睨んでいたが、
「・・わからない・・」
「未来を見つめるキャッツアイ、だってさ^^」
「変、かなぁ・・」
「いいんじゃないの」
「いいよね^^。うんうん」
私にはHoichiさんの語尾に「どうでも」があるように感じた。

急に背後から声がかかった。
「なんだい、自分たちばっかりで話し、して」
びっくりして振り返ると、険しい表情のWizが立ち去りかけていた。
「ごめんなさい」
「気がつかなかった」
「無視したわけでは、ないよ」
私たちの謝罪が聞こえたか、聞こえなかったか。
無言で人混みに消えてしまった。
「Hoichiさんに会わそうと思ったのは、彼よ」
「誰です?」
「僕のプリ試練に付き合ってくれたWizさん」
「気難しい人、なのかな」
怒鳴り声
!「気難しくなんか、ないぞ!」
「いるなら出てきてよ」
また、無言。
やれやれ・・。

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