風のファルク

 
第一章 その10 スケルトン
 
 

深い森を抜けると、島の東は広い砂地だった。
照りつける太陽がまぶしい。
「この辺だね。」
「だな。」
トワさんとファインダーさんが頷きあい、間隔をとる。
私はまだ、状況が掴めない。
ふいに
砂漠に陽炎がたつ。
誰か、近づいてくる。
疲れ切った様子で両手を下げ、フラフラと寄ってくる。
声を掛けようとする私の耳を、鋭い矢音が貫く。
トワさんが弓を使ったのだ。
同時に4匹の犬と、ファインダーさんが駆け寄る。
疲弊した冒険者が盾を上げ、剣を構える。
戦闘
呆然としている私に、トワさんの叱責が飛ぶ。
「ファルク、行きなさい!」
慌てて駆け出す。
ようやく駆け寄った時には、戦闘は終わっていた。
倒れた冒険者を、ファインダーさんが漁る。
「失敗だ。」
私は信じられなかった。
ファインダーさんが、
トワさんが、
人を襲い、
殺す!
振り向いたファインダーさんの目は、いつものように笑っている。
「どうした?あぁ、こいつか。」
「なぜ?」
私の問いに答えたのは、トワさんだった。
「ファルク、よく見て見」
倒れた冒険者に眼を移す。

なにか、変だ。
「そいつはスケルトンって怪物よ。」
私は自分が見たものを、やっと理解した。
痩せているのではない。
相手の顔に、腕に肉がない。
全身に骨しかないのだ。
「こいつは、放っておいても襲って来るんだ。」
ファインダーさんが教えてくれる。
「もとは人間だったのかも知れないけど、ね。今は死にきれない怪物よ。」
トワさんが、言う。
私は気を取り直して、聞く。
「失敗って、どういうことです?」
「見せてやるよ。」
ファインダーさんが荷物袋を開ける。
不思議な色合いの、小さな骨片。
「ボーンピース(骨P)って呼ばれてる。これがこいつらを動かしてるらしい。
この骨Pを使って作る防具は軽くて丈夫なんだ。でも、うまく倒さないとこいつが
割れちまって使い物にならないんだよ。」
「ファイはさっき、これで作った兜を落としちゃったのよ。だから、集めに来たって
わけ(^^)」
「うぅ(;;)」
なるほど
相手が人間でなければ、遠慮はいらない。
肩の緊張を解いた私に、トワさんが号令する。
「わかったね(笑)。じゃ、次、いくわよ」

スケルトンは後から後から襲ってきた。
トワさんの弓と、ファインダーさんの剣、そして犬たちの牙で次々倒してゆく。
私はただ、走り回っているだけだ。
スケルトンに向かう途中で、別の一体がトワさんの背後に現れた。
方向転換
可能な限りの駆け足で、戻る。
やっと一太刀。
相手の骨を削る。
スケルトンが振り向く。
眼球のない眼窩が、オレンジ色に光っている。
恐怖
心は凍りついたが、身体は反応した。
幾度も切り結ぶ。
トワさんの弓が援護してくれる。

切っ先が相手の胸の骨をかすめた。
瞬間、スケルトンは砕け散る。
「ふふ。やったじゃない。」
トワさんが微笑む。いつの間にか、ファインダーさんが後ろで眺めている。
「それでいいよ、今は。でも骨P、割っちゃったね。」
「すいません。」
「それで充分さ。誰がやっても、めったに取れるものじゃない(^^)」
ファインダーさんが笑う。
トワさんが小休止を宣言する。
渓谷で学んだように、私は二人を中心に周囲を巡る。
「何、やってんだ?」
「索敵行動」
「いいから、座って休みなさい(笑)」
トワさんが、言う。
「警戒なら、犬がしてくれてる(笑)」
確かに二人の犬は、私たちから少し離れたところで眼を光らせている。
私は迷った。
大事な二人に万一のことがあったら・・。
と、犬が走り出す。
弾かれるように、ファインダーさんが飛んでいく。
トワさんの弓が鳴る。
反対側にいた私が追いついたとき、戦闘は終わっていた。
「そんなもんだよ。警戒した反対側に、敵はいるもんだ。」
やれやれ

何体かのスケルトンを倒した。
どうしても出遅れる。
「ファルク、ヘイストポーション(GP)使わないの?」
「めったに使いません。」
二人があきれ顔で私を見る。
「騎士は武装が重いから、どうしても動作が遅くなるんだ。上手に使った方がいい」
ファインダーさんが教えてくれる。
「でも、薬物に頼るのは・・」
「それはそうさ。常時使えって言うんじゃない。状況を読めってことだよ。」
「騎士には、もっと強い薬もあるの。でも、ファルクにはまだ早いわ。」
トワさんが言う。
「周りの状況、自分の状態、相手の強さ、いろいろ飲み込んだ上で判断できるまでは
GPだけにするのよ。いいね?」
「はい」
私は答える。
「さて、そろそろ陽が暮れる。帰還しよう。」
ファインダーさんが言う。
「ファイ、集まった?」
「だめだな。」
ファインダーさんがため息をつく。
トワさんが
にやっ
と笑う。
「帰還スクロール(帰還スク)で帰るわよ。ファルク、持ってる?」
「はい」
「じゃ、TIの街で合流ね。」
ファインダーさんが飛び、トワさんが飛ぶ。
私は最後に残って、砂漠に沈む夕日を見た。
流れた血、流れなかった血の色を見た気がする。
夕日の中に、影が動いた気がする。
私は、帰還スクを使った。

街の掲示板前でトワさんが待っていた。
「ファルク、あんまり叩けなかったね。」
「はい」
「出してごらん。」
私は持ち物全部を渡した。
「ファイ、君もだよ。」
「わかってるって。取りあえず、売ってきたよ。」
「サンキュ、気がつくね。」
トワさんは私たちの荷物を預かると、どこかへ出かけていった。
「?」
「あぁ、稼ぎを分けられるように売りに行ったんだ。」
「分ける?」
「精算っていって、うちはクランハント(クラハン)の稼ぎは頭割りなんだ。
じゃないと一緒に行っても取れるやつ、取れないやつが出ちゃうだろう?
トワはそれが嫌なんだよ。」
トワさんが戻ってくる。
「あんまりなかったから、これだけね。」
ファインダーさんと私にアデナをくれる。
「こんなに?私はこんなに取ってません。」
二人が笑う。
「だから、精算なのよ。今のファルクがファイと同じだけ稼げるなんて思ってないわ。
でも、一緒に頑張ったんだもの。堂々と受け取りなさい。」
返金しようとする私にトワさんが、言う。
「でもね、騎士は強くなるわ。そうすると全部騎士が取っちゃうかも知れない。
ファルク、いい?出来るだけみんなが公平になれるように考えるの。ファルクが手に
入れたアイテムは、ファルク一人の力かどうか。エルフやWizが協力してくれなけ
れば、生きて帰ることだって出来ないかもしれないんだから。
「アデナや赤Pはみんなが使えるわ。でも、それぞれのクラスにしか使えないものも
あるの。必要とする人がうれしいって思えるように、分配するのよ。」
トワさんが話してくれる。
「さて、俺は行くよ」
ファインダーさんが言う。
「骨P、集めなきゃな。」
「ちょっと待ってて。」
トワさんが引き留める。
倉庫に向かおうとして、振り返る。
「ファルクも、いてね。」
陽はすでに暮れ、星が光りだしてきた。
暫くしてトワさんが戻ってくる。
「ファイ、これ」
「おー、でもいいの?」
「うん」
「じゃ、いま作ってるの、どうしよう。」
「ファルクが必要になったら渡して上げて」
「わかった。ありがとう」
ファインダーさんが落ちていく。
「ファルクには、これね」
「?」
私を振り返って、トワさんが差し出す。
ブーツ
「どうして?もらえない。」
「いま、靴でしょ?少しでもACを下げなくちゃ」
「でも」
「一緒に行動するみんなのためよ。騎士が強ければ、安全が増すんだから。いいね?」
「はい」
「じゃ、私も行くね。」
トワさんが落ちていく。
私は受け取ったブーツを履いてみる。
わずかだが、動きやすくなった。
私は赤Pを補給し、東を目指した。

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