風のファルク

 
第一章 その9 クランハント
 
 

翌朝、半角@は静かだ。
私は町に出た。
昨日、Hoichiさんにもらったドーベルマンを引き出す。
静かな犬だ。
凄味(すごみ)がある。
私を値踏みしている。
そう、感じた。
狩に連れ出す。
ドーベルマンは、強い。
私の出番は、ない。
私がFAを取った後は、2撃を待たずにモンスターを引き倒す。
あんたにできるかい?
明らかに私をHoichiさんと比べている。
私たちは犬小屋に引き返した。
チールとキグナスはまだ、眠っている。
私は一人で西へ行く。
何頭かのモンスターと対峙(たいじ)していると、森がカサカサと震えた。
この足音は・・。
あの、大蜘蛛が迫ってきた。
悪夢が蘇(よみがえ)る。
私は剣を振りかざす。
シミターが蜘蛛の身体に食い込む。
蜘蛛が奇声を上げる。
しかし、蜘蛛が倒れるより、私が意識を失う方が先だった。

気がつくとTIの町。
町はずれに男のテレポーターが立っていた。
「本来、歌う島(SI)はお前さんぐらいの奴は入れないんだが」
男は言う。
「どうもまだ、十分じゃないようだな。特別に連れていってやるよ。」
私は少し待ってくれるように頼むと、急いでチールを連れてきた。
「用意はいいかい?すぐ戻れよ。」
男の声が消えると、小さな村にいることを知った。
雰囲気はあの渓谷と似ているが、高貴な顔立ちの若者が多い。
私は島を巡った。
やはり渓谷に似ている。
私はゾンビを中心にチールを鍛えた。
私がFAを取った後をチールに任す。
瞬く間にチールは、キグナスほどに逞(たくま)しくなった。
その時、ガードが寄ってきた。
「卿よ、島を出る時間です。」
「はい。」
私はガードに従って、SIを後にした。
私の目は懐かしい渓谷を求めていた。

TIに戻るとプリンセスが寄ってきた。
「あなた、私のクランに入らない?」
「え?」
「まだ出来立てだから、騎士がいないのよ。」
「ファルク!」
後ろから声が飛ぶ。
トワさんが立っていた。
「ごめんね。ファルクはうちのなんだ。」
「そっか。」
プリンセスが去っていく。
トワさんが振り向く。
「ファルク、浮気はだめよ!」
「はい?」
私には事態がまだよく飲み込めない。
「まぁ、いいわ。気をつけてね。今度からは自分で断るんだよ。」
「はい」
「ファインダーは昨日、なんか言ってた?」
「クランハントしたいねって言ってました。」
「クランハント、か・・。じゃ、これから行こうか。」
「え?」
「一緒に狩に行こうって言ってるの。」
トワさんが笑う。
「はい、お供します。」
「では、犬小屋へ、ゴー。」

勇ましい。
私は後を付いていく。
トワさんは二匹のドーベルマンを引き出した。
どちらも私のドーベルマンとは比べようもなく大きい。
そしてトワさんを信頼しきっている。
私は少し考えて、チールとキグナスを引き出した。
「いい犬だね。」
まだ弱々しいシェパードを見てもトワさんは笑わなかった。
「じゃ、出発!」
森を東に向かっていく。
自信たっぷりに進んでいく。
右に折れ、急に左に曲がる。
私の後をただ付いてくるチールたちと違い、トワさんのドーベルマンは藪に潜ったかと
思うと、まるで別の所に顔を出す。
オークやウェアウルフを相手にしながら、進む。
「あれはストーンゴーレムなの。叩くと剣が壊れちゃうから、近づかないようにね。」
私にとって馴染みのないモンスターは一つ一つ、教えてくれる。
一軒の大きな建物の前に出た。
門前であの大蜘蛛が、女性ウィザードを襲っている。
うっ
息を呑んだ私を後目に、トワさんと犬たちが駆けてゆく。
まさか、見ているわけにも行かない。
私も二匹を引き連れて駆けつける。
トワさんの弓が鳴る。
私も斬り付ける。
数瞬後、蜘蛛は動かなくなった。
私のつけた刀傷は、どれも浅い。
ほとんど矢とドーベルマンの牙で倒したようなものだ。
トワさんは襲われていた女性ウィザードとなにか話していたが、
ふいっ
と森に入っていく。
私は続く。

しばらく狩を続ける。
なるほど。
トワさんの弓も、決して力強くはない。
だが、確実にFAを取っていく。
あとはドーベルマンの牙と二の矢、三の矢で仕留めていく。
私も真似してみるが、うまくない。
早矢(はや)でFAは、取れる。
が、遅矢(おとや)をつがえる間にモンスターが寄ってくる。
弓を離し、盾と剣に持ち換える間に襲撃を受ける。
その度に傷を負い、赤Pに手を伸ばす。
そんな私をトワさんは面白そうに眺めている。
と、
ファインダーさんの声が流れてきた。
@「やっちゃったー。」
@「どうした?」
@「ラグって死んだら、兜を落としたTT。」
@「どうするの?」
@「なんとか作るよ。でも今は兜がない。」
私が話に加わるまでに、これだけの会話が交わされる。
@「こんにちは」
@「よう、ファルク。なにしてる?」
@「二人でクランハントよ。ファイも来ない?」
@「う〜ん、今どこ?」
「今どこ?」
トワさんが急にこっちを向く。
えっ
怪訝(けげん)な顔つきの私に、トワさんがあっけらかんと言う。
「わたし、方向音痴w」
慌てて荷物袋から地図を出す。
@「魔法屋の爺さんの畑です。」
私はまだ、半角@をつけたままだった。
@「だってさ。」
@「わかった、いくわ。」
ファインダーさんの声が途切れる。
「ふ〜ん、ファルク、地図持ってるんだ。」
「地図なしでは私は歩けません。」
「方向音痴だけど、持ってませーん。」
トワさんが笑う。
しばらくまた、森をグルグル狩して歩く。
と、海岸に出た。
@「畑にいないじゃないかー。」
ファインダーさんの声がする。
@「ごめーん、ファルク、今どこ?」
私は地図を見る。
@「魔法屋の北北東の海岸です。」
@「だって。待ってて。」
@「ウイ」
トワさんが半角@を外し、おどけて言う。
「案内してw」
私は地図を頼りに、魔法屋に戻る。
「あ、やっときた。」
ファインダーさんが待っていた。
「災難だったね。」
「TT」
「泣くなって。後でいいモンあげるから。」
あのファインダーさんが、じゃれている。
「じゃ、骨狩りだね。」
トワさんの号令。
ファインダーさんを先頭に東へ向かう。
骨狩りってなんだ?

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