風のファルク

 
第一章 その12 赤い剣
 
 

ぼーっとしたまま、犬を連れ出し、海岸沿いに北へ行く。
小さな半島に着く。
そこは、モンスターたちが溢れていた。
私は黒いオークを、ウェアウルフを、ドワーフを狩った。
次の獲物を追って、走る。
と、
いきなり岩が動き出して、私を殴りつける。
しまった。
ストーンゴーレム(岩ゴレ)を起こしてしまった。
シミターで斬りつける。
岩ゴレは微かに動きを止める。
2撃、3撃・・・
岩ゴレの間接の中には、不思議な色合いの管が通っている。
チールが膝の管を噛み切った。
その瞬間
岩ゴレはバラバラな岩になって倒れた。
が、
私のシミターは刃がぼろぼろだ。
使い物にならない。
恨めしげに睨んでいる私に、一人の黒いオークが声を掛けてくる。
「剣で岩ゴレを叩いちゃったのか。」
私は驚きながらも、刃こぼれしたシミターを振り上げる。
「おっと、俺はモンスターじゃないよ。」
黒いオークが否定する。
「これは変身してるんだ。カモフラージュさ。変身してるとモンスターに襲われないし、
もう少し別の意味もある。」
「別の意味?」
「まぁ、いいさ。君が変身を必要とするのは、ずいぶん先のことだから。それより、こいつを使わないかい?」
黒いオークは、薄刃で中型の斧を差し出した。
ずしっと重い。
「そいつはバーサーカ・アックス(バサ斧)っていうんだ。使っている間はGPを飲まなくてすむよ。岩ゴレを叩くにはちょうどいい(笑)」
「でも・・・」
「あぁ、アデナはいらない。俺はまだ狩りを続けたいんだが、その重さだろう?バサ斧は
売れないし、はっきり言って邪魔なんだよ。君にあげるから上手につかってくれ。」
「ありがとう」
私が礼を言い終える暇もなく、黒いオークは宙に消えた。
バサ斧
バランスは悪くない。

重い。
とても片手では扱えない。
私はシミターをしまい、盾を背負った。
そのまま、私は立ち上がれなかった。
重すぎて動けない。
荷をほどき、犬たちにくくりつける。
犬たちが抗議の声を上げる。
僅かに軽くなった荷物を持って、私たちはふらつきながら街へ向かった。

街を迂回して海岸沿いに船着き場へ向かう。
船着き場の向こうに「パンドラの店」がある。TIで唯一の一般品交易所だ。
私は狩りの成果の他、未使用のGPも売り払った。
そして、パンドラにシミターを見せた。
「刃こぼれがひどいね。」
パンドラは珍しくもなさそうに言う。
「岩ゴレ叩いちゃったんでしょう。あれをやると、刀身がゆがんでリサイクルできないのよ。折れるまで使っちゃった方がいいわ。」
店中響くように言うと、こっそり私に耳打ちする。
「ほんとはね、安値で買い取って鋳潰しちゃうんだけど、教えて上げる。この剣はまだ
使えるよ。」
「本当ですか?」
「えぇ。砥石で何回か研げば、新品同様になるわ。でも、ここまでひどいと砥石が
いくつもいるわよ。」
私は礼を言って砥石を買い込んだ。
砥石に関する限り、店の売り上げの新記録だ、とパンドラは笑った。
街に戻り、宿屋で水を借りてシミターを研ぐ。
幾度も研いでいるうちに、シミターは元の色合いを取り戻していった。
買い込んだ砥石がほとんどなくなる頃、やっと研ぎが終わった。
陽はまだ昼前だ。
私は狩り場に戻った。

私は夢中で島中の狩り場を巡った。
何度か@マークが鳴ったが、出なかった。
狩り場とパンドラの店を幾度も往復するうち、ガードの立っている洞窟を見つけた。
ガードは私をジロリっと睨んだが、何も言わずに通してくれた。
洞窟の中は石畳の立派な造りだった。
奥に進むと、二人の副官を引き連れた、男が立っていた。
「お前は騎士を目指しているのか。儂たちには腕の立つ騎士が必要だ。お前の準備が出来ているか、試してやろう。」
男は重々しい声で、私に告げた。
「島の北東の半島に大蜘蛛が出る。お前は一人でその蜘蛛を狩って、牙を取ってこい。
決して犬も、他人の助力も受けてはならない。できるか?」
「やってみます。」
私は答えたが、疑問があった。
北東の半島には蜘蛛はいない。
私が口を挟む前に、副官の一人が告げた。
「急がれよ、ファルク。グンター卿はお忙しいお方だ。」
私は一礼して洞窟を出た。
どこかで聞いた声だ。
洞窟を出るとすぐ、ウェアウルフに出くわした。
ウェアウルフを倒すと、見慣れないコイン様のものを持っていた。
そういえば、さっきからこれが溜まっている。
パンドラさえ引き取ってくれないばかりか、倉庫に入れることも拒まれる。
一つ一つは大した重さではないが、まとまれば馬鹿に出来ない。
ただでさえ、バサ斧は重いのだ。
捨ててやろうか、と考えていたとき、蜘蛛が襲ってきた。
どうにか蜘蛛を倒す。
鎧の肩に牙が刺さっている。
試練を果たす前に、私はやはり疑問を解いておきたかった。
北東の半島に蜘蛛はいない。場所を間違えていないか?
私はそのまま、グンター卿の洞窟へ戻った。

洞窟に入ると、さっきの場所でグンター卿と副官たちが話していた。
談笑というより、口論に近い。
私が近づくと、3人は口を閉ざした。
「どうした、なにか忘れ物か?」
さっきとは別の副官が声を尖らす。

手を伸ばして私の肩の牙を引き抜いた。
「驚いたな。もう終えてきたのかい。」
なに、とグンター卿の片眉がつり上がる。
あはは、と副官たちが声を上げて笑う。
「どうやら、一人はゲラド卿の話を覚えている者がいたようですな、グンター卿。」
グンター卿はむっつりと頷いた。
そして私を振り返り、苦々しげに言った。
「見事に試練を果たしたな。剣を一本授ける。この剣は騎士見習いとして儂の元を卒業した証だ。行け。そして仕えるに相応しい君主を見つけよ。」
グンター卿は壁にかけてある幾本もの赤いロングソード(RKS)を見回した。
その間に副官たちが私の腕や身体の寸法を採る。
その数値を見たグンター卿は、初めてニヤリと笑った。
「少し話がある。ついて来い。貴君らも少し休憩しないか?」
そして奥の間に私たちを招いた。
石壁の一部を開いて、何本かの剣を見せる。
「お前、これを使って見ないか?」
グンター卿の差し出した一本を見て、副官が顔色を変えた。
「それは、GPIB!」
「それもIEEE-488」
「グンター卿、いけません。ファルクには私のRKSを!」
「いや、私が貸しましょう。」
なぜ、私の名前を知ってるんだ?
「だめだ。ジョシュアは背が高すぎるし、ファルクはザムザと違ってCON型ではない。
儂は無駄にデータを取ってはいないのだよ。」
ジョシュア、ザムザ!懐かしい渓谷のゲラド卿の副官たち!
二人はナイトバイザーを取り、私にウィンクした。
「しかし、グンター卿」
「黙れ!」
グンター卿はその威厳を爆発させた。
誰もが口を閉じた。
しばらくして、グンター卿が話しかけてきた。
「ファルク、この剣はお前たちにやるのではない。貸し与えるだけで、いつかは返して貰わねばならない。本人が返しに来ることもあれば、剣だけが戻されることもある。
「はっきり言おう。この部屋の剣は、未来の騎士たちのために儂が研究しているものだ。
お前も承知の通り、騎士は魔法を使えない。が、魔法に代わるなにかが無くては、騎士に
未来はない。そのため、魔法以外の技術がいるのだ。そのためのデータ取りに協力せよ。
「これらはグンター私設工房の剣(Gunter Private Industrial Brade)と呼ばれている。
お前に授ける一本は4度材質を変え、8度混合比を見直し、8度鍛え直された。この意味が分かるか?」
「まだ未完成と言うことです。」
私の答えに、グンター卿は声を荒げた。
「違う、完成は目前なのだ!ただ、データが足りんのだ!」
「それはこの剣の使い手が、未だに生きて返しに来ないからでしょう?」
ジョシュアが悲しげに言う。
「私がその剣を拒んだら、どうなるんです?」
私は静かに訪ねた。
「お前には向こうの部屋にある、現行のRKSをやる。」
「そして、その剣は別の誰かが授けられるんですね。」
「未来のためだ。仕方あるまい。」
グンター卿は、そっぽを向いて答えた。
「わかりました。その剣を授けて下さい。」
「ファルク!お前、俺の言ったことを聞いてなかったのか?生還者ゼロの呪われたRKSなんだぞ!」
「だって、私が拒まなければ誰かが使わないですむんでしょう?」
「決まったな。ファルク、これを持って行け。出来ればデータをつけて返しにこい。」
私は呪われたRKSを受け取り、部屋を出た。
背後で微かに声がする。
「ジョシュア卿、ザムザ卿、ふたりは儂とは意見が合わないようだ。どこか良い場所を
探してやろう。早急に」

その11 ケリーママへ    その13 勇者の証へ