洞窟を出ると、陽が傾きはじめていた。
私は@マークをいれた。
@「やりました」
@「なに?ファルク、なにやってたの?」
トワさんの声がきつい。
@「何度も呼んでたのに、黙ったままじゃ心配するでしょう?」
@「すいません」
私は謝った。
@「まぁ、いいじゃないか。で、なにをやったんだぃ?」
ファインダーさんが間に入ってくれる。
@「グンターの試練に合格しました!」
@「おめでとう!」
@「おめ」
いくつもの祝福が送られてくる。
@「でも、ファルク。お前、昨日渓谷を出て、TIへ真っ直ぐ来たんだろう?」
一瞬、クランチャット(クラチャ)が止まった。
@「はい」
@「今日の朝だけで、そこまで上げたのか?」
@「はい」
みんな、明らかに急ぎすぎだと思っているらしい。
@「で、これからどうする?」
トワさんが聞いてくる。
@「骨の装備を買いたいから、狩り場を回ります。」
@「骨セット、欲しいんだ。」
@「はい」
@「アデナ、貯まった?」
@「これから貯めようと思います。」
クスクス笑いが聞こえる。
@「了解よ。頑張って。」
@「はい」
@「でもね、クラチャには答えなさい。逝っちゃったかってみんな心配するから。せめて
来た時と落ちる前には挨拶しなさい。」
@「私が来たとき、誰もいませんでした。」
@「そっか。じゃ、誰かが来たときに挨拶してね。」
@「はい」
私は街に戻り、RKSとバサ斧とPOTをいくつか残して、荷物を倉庫に収めた。
チール、キグナスを引き連れ、島中を巡る。
私のRKSは良くヒットした。
悪くない。
が、
相手へのダメージに波があった。
クリティカルヒットするときもあれば、逆に私の身体を傷つけることもあった。
だが、その気まぐれ加減が、どこか私と似ていた。
仲良くやろうぜ、相棒。

夕方近く、街に戻った。
ふと、掲示板を見る。
勇者の印イベントの詳細が出ていた。
対象は男性のみであること。
個数に応じてグルのプライムが各種の指輪をくれること。
期間は一週間であること。
勇者の証は以下のモンスターが持っているかも、しれないこと。
:
あまり関係ないな、と思った。
ふと荷物袋を見ると、勇者の証が30個ばかり入っていた。
今朝のケリーママの言葉を思い出す。
(女性は参加できないの・・。)
私は思った。
(今日の幸運はケリーママの祝福のお陰だ。この証を指輪にして、感謝を示そう。
それで私にとってのイベントは終わり。)
私はグルへの最後の船に乗った。
船はのんびりと進み、陽が沈みきる頃、グルの港に着いた。
プライムはグルの街の道具屋前に立っていた。
イベント初日のことで、誰も彼に話しかけない。
私が近づくと、うれしそうに話し始めた。
「お前は本当の勇気があるか。それを示すチャンスをやろう・・・。」
私は話し終わるのを待たずに、証を全部、プライムに渡した。
プライムは顔をしかめて数え、言った。
「36個あるな。6個は返す。希望と情熱、どっちがいい?」
「希望、と情熱?どう違うんです?」
「そう呼ばれてるだけさ。この指輪に意味はない。」
なにか言い淀んで、プライムが答えた。
「・・・希望」
指輪と証の余りを受け取って、TIに戻ろうと思った。
もう船はない。
ふと考えた。
私にはもう一人、感謝を示さなければいけない人がいる。トワさんもまた、イベントに
参加できないでいるのだ。
私は迷った。
指輪は一つ。恩人は二人。
答えは直ぐ出た。もう少し、集めよう。
掲示板の告知を今度はまじめに読んだ。
勇者の印は、以下のモンスターが持っているかも知れない。
・・・・・・大蜘蛛、ウェアウルフ、ドワーフ
前の方のモンスターは、まるで見たことがない。
多分、私では相手に出来ないだろう。
と、なると実質的な相手は3種類。
私は装備を調えると、単身グルの街を後にした。

グルからケントへの街道沿いにはドワーフが多い。
グルの直ぐ西の森にはウェアウルフがいる。
私は二つの狩り場とグルの街を行き来した。
どちらかでの出が悪くなると、場所を変えた。
(今日のうちに。祝福の日のうちに)
私はそれだけを考えて、RKSを振るった。
真夜中少し前に気がつくと、証は30個を超えていた。
私はプライムの所へ飛んで帰った。
暗がりの中にプライムは座っていた。
私の近づく気配に、うれしそうに立ち上がったが、私の顔に見覚えがあることに
気づいてまた座り込んだ。
私は黙って、証をプライムに渡した。
「41個ある。11個は返す。希望と情熱、どっちがいい?こんどは情熱にするかい?」
私は少し、考えた。
トワさんとケリーママ
希望と情熱
どっちがどっちに相応しいだろう?
答えを考え出すには、私は疲れすぎていた。
「・・・希望」

指輪と証の余りを受け取った時、@マークが話しかけてきた。
@「ファルク、まだ頑張ってるんだ」
トワさんの声だ。
@「骨セット、いくらで買う気?」
@「TIの街や全チャで12kって出てるから、それくらい。」
@「貯まった?」
@「ギリギリですね。」
@「もう、話をつけたの?」
@「まだです。それどころじゃなくて・・」
@「あたしが売ってあげようか?」
@「ほんとですか?明日にでもお願いします。」
@「どうして?」
@「もう船がないから。TIに戻れません」
@「ファルク、いまどこ?」
@「グルです。」
@「掲示板の所にいて」
クラチャが途切れた。
私は倉庫に行ってアデナを全部出し、掲示板前に向かった。
トワさんはもう、来ていた。
「こんばんは」
ふふっと笑うと、トワさんは骨セットを渡してくれた。
新品だ。
私がアデナを渡そうとすると、言った。
「7kでいいよ」
「え?だって12kって約束」
「いいの。ほんとはプレゼントしたいけど、トワもまだまだ強くならなくちゃ、だからw」
私は黙って7kを渡し、そして指輪を差し出した。
「?」
「気持ちです」
「でも・・」
「安物で、悪いんですが・・」
「・・・ありがとう」
トワさんはさらに何かを言いたげだったが、私は限界だった。
「すいません。もう寝ます。」
「・・うん、おやすみ。」
「あっと、クラチャで挨拶。」
「いいよ」
「だって」
「もう、あたしとファルクしか残ってないよw」
「あちゃ、またやった」
「ふふw」
「じゃ、おやすみなさい」
「おやすみなさい。また明日w」 |