私は毎日、狩りに出た。
そしていろいろ学んだ。
オークは攻撃してくる直前、何をするか。
ゴブリンは、コボルトはどこに潜むか。
黒いオークはどこで待ち伏せしているか。
あのゾンビさえ、息継ぎの瞬間があることを知った。
私は獲物から得たアデナで装備を固めた。
ヒヨッコのジャケットをオーク並みの鎧にした。
もっとも、あの黒い鎧を着ることだけはごめんだが。
ある日、狩場でドワーフを見かけた。
私の胸に懐かしさが広がった。
思わず駆け寄った私に、そのドワーフは顔を向けた。
目つきが怪しい。
歯を剥き出しにする。
ドワーフ特有の雄叫びを上げる。
違う!
懐かしい老ガズムの声が蘇(よみがえ)る。
(・・ドワーフは、変わった・・)
目の前のドワーフは、私を獲物としか見ていない。
私は、逃げた。
逃げながら、馬鹿のように言い続けた。
「ガズムを知りませんか。ガズムを・・」
ドワーフの足は遅い。
私は逃げ切った。
涙が溢れて、止まらなかった。
懐かしいドワーフは、いまや敵なのだ。
私が狩るべき、敵なのだ。
頭では、理解した。
けれど実際にドワーフに刃を向け得たのは、ずっと後のことだった。

上級者たちの多くは、犬を引き連れて狩をする。
犬は忠実で、攻撃力があり、荷を苦にしない。
飼い主は犬を大事にし、犬は飼い主によく従う。
時には飼い主の替わりに、モンスターを仕留めに向かってゆく。
気安い上級者に尋ねる。
「どうやってペットにしたんです?」
「ペットじゃないよ。こいつは相棒さ。」
上級者は答える。
「犬はね、その辺をうろついてる奴から、これはってのを見つけて捕まえるんだ。テイムって言うんだよ。」
「捕まえる?」
「あぁ。奴らは野生だからな。捕まえようとすれば手向かってくる。そいつを腕力で
どっちが強いか教え込むんだ。犬が迷い始めたら、肉をやる。肉を食べたら観念したって
ことだ。」
「どうやって迷っているか知るんです?」
「相手の眼を見るんだ。後は勘だな。無理しすぎて殺しちまうこともある。強すぎてこっちがやられることもある。もっとも強い犬でなけりゃ話にならないが。」
私は犬と戦いたくない、と言った。
「じゃあ、アデナを貯めて誰かから買うんだな。だが、高いぞ。それに終生の友を金でやり取りするのは、俺は好かんね。」
狩場に向かう彼に私は礼を言って離れる。
ふと思い出したように彼が言う。
「黒いドーベルマンは、普通の肉ではだめだぜ。あいつは特別の肉を好むんだ。」
「特別な肉、ですか?」
「あぁ、空中に浮いた目玉みたいなモンスターの肉がいるんだ。」
私はそんな奴を見たことがない。
「俺も見たことはない。遠くの森や砂漠にいるらしい。俺はその眼肉をクランの先輩に分けてもらったんだ。」
私は彼と彼の犬たちを見送った。
犬と戦えるか
犬と戦いたいか
いつまでも自問していた。

日々が過ぎ、一日ごとに上級者が去っていく。
私と同期の仲間も、多くがクランマークをつけていた。
そして、どこからか犬を調達してくるようになった。
中には3匹目の犬を連れ帰って、小遣いを稼ぐ者もいる。
人気は「特別な」ドーベルマンだ。
しかし、私は犬を使わなかった。
やはり、どこかで吹っ切れない。
ゲラン師の講義中、こそこそと半角@をつけるものが増えた。
講義中、私語は厳禁だ。
本来なら半角@も外すよう、注意されている。
実情は携帯電話の電源OFF程度にしか、守られていない。
講義中、ピクッと身体を伸ばした者は、しばらくしてそのまま退席してゆく。
大抵は翌日、少し大人ぶって帰ってくるが、そのまま消えてしまう者も多い。
ゲラン師も副官たちも、不快そうではあるが、彼らを止めない。
実践で学べ
そういうことなのだ。

陰口やうわさは、必ず本人に届く。
私をこう呼ぶ者がいるらしい。
孤児
実際、家族は行方不明なのだからかまわない。
が、
どうもそう言った意味ではないようだ。
そんなある日、講堂の影から数人の笑い声が聞こえた。
孤児のファルク
私は駆け寄って、首領格を問い詰める。
始めはノラリクラリと否定していたが、面倒くさくなったのだろう。
孤児のファルク、を認めた。
一斉に彼の仲間たちが喚く。
「お前のクランマークは、鳴らないじゃないか。」
「お前はクランに捨てられたんだ。」
「初めから、からかわれていたのさ。」
違う!
トワさんもファインダーさん達もそんな人じゃない!
じっくり、待ってくれているだけだ!
激しい口論
不意に私は口篭もる。
確かに、あれ以来、誰とも会っていない。
会っていないが、わかる。
心で感じられる。
それがうまく話せない。
口の重いのが、恨めしい。
真っ赤になって黙り込んだ私を残して、彼らは去っていった。
私は泣いたりしない。
でも、風景がぼやけるのは、なぜだろう。

ふらり、
と森に入る。
誰かと話すと、爆発してしまいそうだ。
八つ当たり気味に、藪を払う。
いつからか、一頭のシェパードがついてくる。
「しっ」
追っても人懐こそうな顔で、キョトンと私を見ている。
そのくせ、私が近寄ろうとすると
跳び下がる。
私が離れれば、ついてくる。
近づけば、逃げる。
こんな気分の時に、とイライラしてくる。
私はフェイントをかけて、素手でそのシェパードを殴った。
シェパードは、歯を剥き出しにして、飛び掛ってくる。
木が一本生えているだけの空き地で、私たちは転げまわった。
組み伏せる
噛み付く
殴る
引っかく
私はやけになって、荷物袋の中身を投げつけた。
偶然、肉だった。
と、
シェパードが、食べた。
夢中で食べ終えると、その場にひれ伏した。
私は赤い液体を飲んだ。
シェパードが私を見ている。
シェパードにも飲ませてみる。
私の手から、飲んだ。
お互い傷だらけだ。
私とシェパードは、寄り添って朝日を待った。 |