眼が覚めると、朝日が射していた。
しかし、今日の空はどこか冷め切っている。
半角@で挨拶しても、まだ誰もいない。
昨夜の骨セットを身に付ける。
軽い、これはいける。
私は犬を取りに、ケント〜グル街道を進んだ。
テレポートを使わず、単身で歩くのは初めてだ。
途中、ウェアウルフを狩って行く。
勇者の証が他のアイテムと共に集まる。
ぶどう園を過ぎた頃、街道脇にドワーフを見つけた。
道を逸れて、追う。
そのドワーフを狩ると、少し離れた所からドワーフウォリアが覗いている。
追い、狩る。
また別の一匹。
いつしか街道をだいぶ離れた。
まずいな。
引き返そうとした私の背後から、カサカサという聞き覚えのある音が近づいてくる。
あの蜘蛛だ。
私は振り返り、攻撃に出ようとした。
が
マウスカーソルが、画面中央で動かない。
パニック
ファンクションキーを忘れて、ポインティングパッドでマウスカーソルを【帰還スク】
に合わせようとするが、うまく動かない。
蜘蛛の攻撃が続き、私は意識を失った。

気が付くとケントの街。
妙に身体が軽い。
「あ!」
私はボーン・ヘルメット(骨ヘル、骨兜)とボーン・シールド(骨盾)を身に付けて
いなかった。
慌てて荷物袋をかき回す。
ない
昨日、トワさんから受け取ったばかりの装備を、早々に失くすとは・・。
「・・慢心・・」
骨セットのおかげなのに、強くなった気がして自分の実力を見失っていたのだ。
愚かな・・。
重い挫折感に座り込む。
高価な装備を失くした事よりも、トワさんの心尽くしを汚した気がする。
(どうしたものか・・。)
半角@で聞く気には、なれない。
とりあえず、昨夜までのドワーフの盾と兜を引き出す。
POT類を揃え、犬達と街道を行く。
ドワーフ、ウェアウルフを狩りながら、南下する。
荷物が嵩張(かさば)りだした頃、珍しい声が流れた。
>「ファルク、イベント、やってるかい」
Hoichiさんの声だ。
>「そろそろ、試練かな?」
>「グンターの試練は、昨日受かりました。」
>「ほぅ、ズイブン早いじゃないか。次は骨セットだな(^^」
骨セット。胸にズキッっとくる。
>「骨セット、昨夜、姫さまから買ったんですが・・。」
>「うん」
>「さっき・・・、蜘蛛に・・襲われて・・」
>「げ。なにか落とした?」
>「盾と・・・、兜・・・。」
>「二つ?信じられない・・。」
>「・・・」
>「ファルク、いまどこ?」
>「グルの手前です。」
>「掲示板で会おう。」
Wisが切れた。
足取り重く、グルに向かう。

荷物を売りさばいても、POT類を補給するといくらも残らない。
動物の皮とランプメタル(ランメタ)だけが数を増やしていく。
掲示板にいくと、Hoichiさんが待っていた。
「災難だったね」
「・・・私の不注意です」
私は事情を話した。
「そうか・・。私の予備の盾、売ってやろうか?」
「でも、予備を失くしたら、困るでしょ?」
「落とさなきゃいいだけさ(^^)」
「でも・・。」
「ナイトは装備がなくちゃ、仕方ないだろ?」
「はい」
「今日は時間がないから、急いで決めて」
「じゃ、売ってください・。」
「うん、500A」
「それじゃ、あんまり安すぎです。」
「あはは、じゃ、1k」
骨盾を受け取る。
「あとは兜、か。こっちは使わないからな〜」
Hoichiさんがなにか調べている。
「ファルク、ランメタと皮、骨Pはいくつある?」
「ランメタは22、皮は200くらい、骨Pは2個です」
「じゃ、骨Pだけだな。ついて来な。」
Hoichiさんはケントに向かう街道を進み、途中から右に折れて森をいく。
と
森が開け、赤茶けた不吉な場所に出た。
「BK荒地って呼ばれてる。ここはケントにもグルにも近くて、スケルトンが多いから、
ここで骨Pを狩ったら良い。」
「来たこと、ありません」
「じゃ、1時間くらい付き合ってやるよ」
Hoichiさんが荒地に踏み出す。
と、向こうからゾンビが寄ってきた。
Hoichiさんの魔法と杖、私のRKSで倒す。
もう一匹、寄ってくる。
駆け出そうとする私に、Hoichiさんの声が飛ぶ。
「ファルク、毒消し、持ってるか?」
「持ってきていません」
「じゃ、あいつはFA取らないように。あれは、グールっていうんだ」
一つ一つこの荒地の説明をしながら、Hoichiさんが敵を倒していく。
グールには毒があること。
青白いスケルトンは、スパルトイ(スパ)と言って、格段に強く、その上危なくなると
逃げること。
4人一組の黒い騎士(BK)は、アイテムはいいが、かなり強いこと
それぞれ1対1の手合わせをさせてくれ、およその感触を得た。

BK荒地を一渡り歩いたところで、時間になった。
「骨P、取れた?」
「いえ・・」
「じゃ、これやるよ」
骨Pを2個、手渡された。
「急ぐから、これで」
「ありがとう」
Hoichiさんはどこかへ飛び去り、私もケントに戻った。
POT類を揃え、毒消し(シアンP)も買った。
イベントなんて、どうでもいい。
犬達を引き出し、さぁBK荒地へ。
と、@マークが鳴った。
@「おはよー」
トワさんの声だ
@「おはようございます」
@「ファルク、今日はなにするの?」
@「BK荒地へ行ってみようかと・・。」
@「BK荒地!どんなところか、知ってるの?」
@「さっき知り合いに連れて行ってもらいました。」
@「そう。でもファルク独りじゃ危険な場所よ。まだ行っちゃだめ。」
@「でも・・」
まさか骨Pを取りに行くとは言えない。
@「それからBB荒地もだからね。そのうち連れて行くから。わかったね」
@「・・・はい」
焦る気持ちは、ある
でもトワさんとの約束だ。
私はシアンPを売り場に戻し、TIへの船着場に向かった。

東の荒地とTIの町を往復する。
ゆっくりと骨Pが集まり、いつしか21個になった。
骨兜を作るには多すぎる。
私は、いつでも骨盾を返せるよう、盾の分も集めていた。
ランメタ、皮、ヘルメットは揃っている。
あと4個の骨Pが、出ない。
TIの町に戻る。
あと4個が、出ない。
騒々しさのなかに、クラン員募集の声が多い。
骨Pの売りは、ない。
やはりケントあたりに行かないと、商売は少ない。
でも、私に他人から買い物ができるかな?
自信がない。
ふと、考えた。
売り買いの声がないなら、ここでは誰も聞いていないのと同じじゃないか。
やってみるか・・。
私は倉庫の脇に立った。
あるだけのアデナを引き出す。
知り合い以外に声を出すのは、初めてだ。
足が震える。
声が、でない。
!「・・骨P、・・譲って・・・ください・・・」
誰も振り向かない。
もう一度だけ言って、ケントに向かおう。
!「・骨P、譲って・・ください」
「骨Pがいるのかい?」
眼を上げると、スケルトンが立っていた。
ぞっとする。
が、陽の光に、中の人物が透けて見えた。
「はい、」
「いくつ?」
「4つあればいいんです」
スケルトンは笑って、トレードを申し込んできた。
トレード窓に「ボーンピース(146)」と表示される。
買い取れる数なのか?
「あの、いくらです?」
「アデナはいいよ、あげる。倉庫が溢れて困ってるんだ。」
「・・ありがとうございます」
「余ったら骨セット作って、初心者に安く分けてやってくれ。」
スケルトンはKneuklid と名乗ると、どこかへ行ってしまった。

TIの町と町外れの鍛冶屋を回り、骨盾と骨兜を作る。
やっと組み上げた、それだけの実感。
ひとつ、深呼吸
@マークを入れる。
@「トワさん、います?」
@「ファルク、なに?」
@「ご報告したいことがあって、」
@「・・・報告って?」
@「実は、骨セットなんですが」
@「うん」
@「先日、蜘蛛に襲われたとき、無線マウスの電池切れで逝っちゃって」
@「・・・」
@「盾と兜を落としちゃって」
@「あぅ・・・それで?」
@「やっと組み上げたんですが、報告遅れてすいません。」
ほっと、@マークの両側でため息が漏れる。
@「自分で作ったのね。いいよ、気にしないで。でも注意してね」
@「はい」
その時、ファインダーさんでない、優しい男の声が流れた。
@「骨セット渡したのって、イベント初日だろ、トワ」
@「そだよ」
@「まだ3日目だよ。ずいぶん早い」
一瞬の沈黙
@「ファルク、荒地行ってないよね」
@「骨PはTIの東海岸です」
@「ホント、だね」
@「約束ですから」
@「・・・わかった」
@「今日は疲れたので、落ちます」
@「はい、お疲れ様」
Quitする私の耳にクラチャが残る。
@「ファルクって、なんであんなに急いでるんだ?」 |