風のファルク
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イベントが終わった朝、街も狩場も寂しく静かだ。
みな、目的を失ったように、停滞している。
倦怠感。
私もまた、その空気に呑まれていた。
Hoichiさんとケントで落ち合って、大都市ギランを案内してもらう。
「テレポートでも一足だけど、近くだから歩いていこう」
Hoichiさんはケント城の西を周って森を進んでいく。
「ギランには外壁の通用門が何箇所かあるけど、犬小屋のところから入るよ」
通用門から都市の入口まで、さらに森が続き、見慣れぬモンスターが顔を出す。
「赤いホブゴブリンは強い。でも一番嫌なのは、インプエルダーだ。無関係の戦闘に
魔法を撃ってくるから、気をつけて」
Hoichiさんの説明を聞きながら、都市へ入る。
「ギランは大きいから、どのみち一度では憶えきれない。どんな店があるかだけ、
気にすればいいよ。
「ここが高級道具屋。ZELやDAI、ブレイブポーション(BP)を売っている」
「ここが食品店。エッグは肉より軽いから、犬の餌にいい」
「ここが防具屋。ギランでは武器と防具は店が違うからね」
「ここが宝石店。他の街では売れない宝石類を買い取ってくれる」
「ここが十字架。ここの中心地だ。倉庫が二人いるし、個人売買も盛ん。テレポ屋や
宿屋もあるから、ブックマークしておきな」
「ここが魔法屋。おっと、騎士には関係ないか」
「ここが・・」
「ここが・・」
頭がパニック。
完全におのぼりさん状態。
「最後に武器屋を案内するよ。私達には売り一方だけど、ファルクはいい武器を
買いにくることもあるだろうから。でも、少し複雑だよ」
商店の前を通り過ぎる。
住宅地を抜ける。
いくつもの角を曲がる。
「あれ?」
Hoichiさんでも道を間違うほど、複雑。
「どう、わかった?」
「全然。ケントのほうが、まだ好きです。」
「ま、何回か歩けば憶えるさ」
Hoichiさんは笑って、去っていく。
私は1人で歩いてみた。
が
十字架にもどれない。
しかたなく、塀沿いに歩き、どうにか犬小屋に戻った。
犬達を引き出し、そのままケントに戻ることにしよう。

ケントまで対した遭遇もなく、たどり着いた。
クランマークが鳴る。
トワさんの声が弾んでいる。
@「やほ、ファルク」
@「こんにちは」
@「クランに新しい人が入ったよ」
@「♂エルフのVenusです。よろしくです〜」
@「♂騎士のファルクです。よろしくお願いします。」
Venusさんの声は優しげだ。
どこかで聞いた気がする。
はて、どこだったろう?
犬を犬小屋に預ける。
倉庫にいくと、人ごみの中にWizを見つけた。
風の具合でフードから顔が覗いた。
あれ?
「ファインダー先輩!」
「あ、見つかっちゃったw」
違うクランマークをつけたFinderさん=ファインダー先輩がイタズラっぽく笑う。
「騎士、やめたの?」
「これは別キャラだよ。取りあえずLv20にしようと思ってる。ファルク、いまいくつ?」
「Lv21です」
「お?のんびりやってると、抜かれるな〜(笑)」
Finderさんと別れ、ケントの西の森に入る。
モンスターが少ない。
大して遭遇しないまま、森を抜けて川原に出た。
橋が架かっている。
ケントの地図には、この橋までしか載っていない。
うわさではこの先にエルフの村があるらしい。
(Venusさん、いるかな?)
橋を渡り、うろうろ森を進む。
身体の大きなオークに何度か遭遇する。
撃退しながら彷徨(さまよ)うと、不思議な生き物に遭遇した。
直立した蜘蛛
眼に知性が感じられる。
相手も戸惑った様子だったが突然、叫ぶ。
「ここは神聖な場所だ。人間・・は、出て行け・・?」
出て行けと言うなら戻ろう。
私は背を向けた。
と
電撃!
白銀に輝く大型の蝶が追ってくる。
慌ててダッシュ。
電撃!
HPが1/3になる。
さらにダッシュして、橋を渡り、大回りしてグルに戻った。

グルのテレポ脇で、トワさんとエルフが話をしていた。
「ただいまです」
「おかえり。ファルク、どこ行ってきたの?」
「ケントの北西の橋を渡った森」
「エルフの森に行ったのか?」
♂エルフが声を上げる。
「始めまして。ファルクです」
「Venusです。逝っちゃった?」
「いえ、電撃2発受けたけど、逃げられました」
「ふむ、ファルク君くらいだと、2発も受けたら即死だけど、ねぇ」
Venusさんが不思議そうにする。
「まぁ、いいわ。BB荒地でクラハンにしよう(^^」
「BK荒地いくの?じゃ、装備換えなくちゃ」
「だめよ。クラハンなんだから(^^」
「あぅぅ、矢を取ってきます・・」
Venusさんが出かけていくと、トワさんが振り向く。
「ファルク、BB荒地行ったこと、あったっけ?」
「約束だから行ったことないです。」
「そっか。カオス神殿、ブックマークさせてあげるね」
トワさんが笑う。
Venusさんが戻ってくる。犬を引いている。
「あー、ずるい」
「いいじゃない、エルフで行くんだから」
「トワも取ってこよっと。ファルクはPOT補給して待ってて」
「え?ファルク君、犬なし?」
「騎士は単騎特攻が基本よ(^^」
道具屋に向かおうとする私に、Venusさんが声をかける。
「BB荒地にはグールが出るから、シアンPも買っておいてね」
店から戻ると、トワさんが帰っていた。
「他にだれかいないかな」
「ファインダー先輩が別キャラでいました」
「ファルク、連絡してみて」
>「ファインダー先輩、トワさんがBB荒地でクラハンするって」
>「了解、どのへん?」
>「カオス神殿ですって」
>「わかった」
「じゃ、しゅっぱーつ」
トワさんを中心にグルの門をくぐる。
わずかな距離をいくと、荒れ果てた平地に出た。
スケルトン、スケルトンアーチャー(骨弓)、スパルトイ、グール、ゾンビ
弓と魔法と犬で蹴散らしながら、北上する。
荒地の北に巨大な骨がドーム型に突き出ている。
「ここがカオス神殿ね。この北あたりにバグベアー(BB)が出るの。」
「ファルク君なら、ここより南なら、いい狩場になると思うよ」
二人にいろいろ教わりながら、犬と一緒に突進する。
と、Wizが声をかけてきた。
「よ、待ってた」
「あー、クラハンなのにー」
「だって、Wiz、育てたいんだものw」
「ま、いいわ(^^」
ゾンビの大群が向かってくる。
弓と魔法が手一杯になる。
そこにBBが襲ってきた。
身体が反応する。
私のRKSがBBにヒット。
真っ赤に輝きながら、どうにか撃破。
「ファルク、やったね(^^」
「POTゼロです」
「じゃ、帰還しよ」
「あい」

カオス神殿からグルに戻る道々、トワさんがファインダー先輩と話す。
「この頃、クランの新人、取ってないね」
「クラハン、少ないかな」
「これから、新人募集にいこうか?」
「これから?TI?」
「うん」
「じゃ、ファインダーに戻らなきゃ」
「なんでさ」
「クランの仕事だから(^^」
グルの街を突っ切り、船着場に向かう。
ちょうど出航するところ。
乗船して話していると、いきなりファインダー先輩が消えた。
「あれ?」
@「落ちたー」
@「戻れる?」
@「船、出ちゃったよ」
@「じゃ、テレポで来るのよ」
@「えー、高いよ」
@「TIで出迎えて(^^」
船でVenusさんにいろいろ話を聞く。
エルフなのに、ずいぶん詳しい。
新入隊でも、新人ではない。
TIの港でファインダーさんと落ち合って、テレポの脇に立つ。
が、みんな恥ずかしがって声が出ない。
ひとり、Venusさんは次々女性キャラに声をかけていく。
「あれ、勧誘?」
「ナンパだろ(笑)」
「慣れたもんだ」
「リアルの体験、かな(^^」
初対面の女性Wizと談笑するVenusさんの後ろで、ファインダー先輩とおしゃべり。
「リアルの体験と、ちがうよー(^^」
周囲にも笑いが広がる。
辺りが暗くなった頃、トワさんが1人の女性エルフと話し始めた。
自分は3rdだし、1stのプリに荷物を届ける途中だが、会えないでいるそうだ。
「じゃ、荷物を届けたら、自由なんだ」
「でも、3rdだから、あんまり来れないよ」
「うちは自由だし、戦争とかしないから」
「そうね、向こうのプリには迷惑かからないもんね」
入隊
「よろしくー」
「こちらこそー」
ほっとして、ファインダー先輩に話しかける。
「先輩、いつかさ」
「うん」
「龍、見にいきたいね」
「いつになるかなー」
「ずっと先だよね」
「タートルドラゴンでは^^;」
「カメじゃやだよ、Venusさんw」
トワさんが会話に混ざる。
「ファルク、龍を倒すのって、大変だよ」
「見るだけでいいんですw」
トワさんの顔つきが変わるのに、私は気がつかなかった。 |
その15 迷走の兆しへ その17 ゲラド師の試練へ