風のファルク

 
第一章 その16 エルフ
 
 

イベントが終わった朝、街も狩場も寂しく静かだ。
みな、目的を失ったように、停滞している。
倦怠感。
私もまた、その空気に呑まれていた。
Hoichiさんとケントで落ち合って、大都市ギランを案内してもらう。
「テレポートでも一足だけど、近くだから歩いていこう」
Hoichiさんはケント城の西を周って森を進んでいく。
「ギランには外壁の通用門が何箇所かあるけど、犬小屋のところから入るよ」
通用門から都市の入口まで、さらに森が続き、見慣れぬモンスターが顔を出す。
「赤いホブゴブリンは強い。でも一番嫌なのは、インプエルダーだ。無関係の戦闘に
魔法を撃ってくるから、気をつけて」
Hoichiさんの説明を聞きながら、都市へ入る。
「ギランは大きいから、どのみち一度では憶えきれない。どんな店があるかだけ、
気にすればいいよ。
「ここが高級道具屋。ZELやDAI、ブレイブポーション(BP)を売っている」
「ここが食品店。エッグは肉より軽いから、犬の餌にいい」
「ここが防具屋。ギランでは武器と防具は店が違うからね」
「ここが宝石店。他の街では売れない宝石類を買い取ってくれる」
「ここが十字架。ここの中心地だ。倉庫が二人いるし、個人売買も盛ん。テレポ屋や
宿屋もあるから、ブックマークしておきな」
「ここが魔法屋。おっと、騎士には関係ないか」
「ここが・・」
「ここが・・」
頭がパニック。
完全におのぼりさん状態。
「最後に武器屋を案内するよ。私達には売り一方だけど、ファルクはいい武器を
買いにくることもあるだろうから。でも、少し複雑だよ」
商店の前を通り過ぎる。
住宅地を抜ける。
いくつもの角を曲がる。
「あれ?」
Hoichiさんでも道を間違うほど、複雑。
「どう、わかった?」
「全然。ケントのほうが、まだ好きです。」
「ま、何回か歩けば憶えるさ」
Hoichiさんは笑って、去っていく。
私は1人で歩いてみた。

十字架にもどれない。
しかたなく、塀沿いに歩き、どうにか犬小屋に戻った。
犬達を引き出し、そのままケントに戻ることにしよう。

ケントまで対した遭遇もなく、たどり着いた。
クランマークが鳴る。
トワさんの声が弾んでいる。
@「やほ、ファルク」
@「こんにちは」
@「クランに新しい人が入ったよ」
@「♂エルフのVenusです。よろしくです〜」
@「♂騎士のファルクです。よろしくお願いします。」
Venusさんの声は優しげだ。
どこかで聞いた気がする。
はて、どこだったろう?
犬を犬小屋に預ける。
倉庫にいくと、人ごみの中にWizを見つけた。
風の具合でフードから顔が覗いた。
あれ?
「ファインダー先輩!」
「あ、見つかっちゃったw」
違うクランマークをつけたFinderさん=ファインダー先輩がイタズラっぽく笑う。
「騎士、やめたの?」
「これは別キャラだよ。取りあえずLv20にしようと思ってる。ファルク、いまいくつ?」
「Lv21です」
「お?のんびりやってると、抜かれるな〜(笑)」
Finderさんと別れ、ケントの西の森に入る。
モンスターが少ない。
大して遭遇しないまま、森を抜けて川原に出た。
橋が架かっている。
ケントの地図には、この橋までしか載っていない。
うわさではこの先にエルフの村があるらしい。
(Venusさん、いるかな?)
橋を渡り、うろうろ森を進む。
身体の大きなオークに何度か遭遇する。
撃退しながら彷徨(さまよ)うと、不思議な生き物に遭遇した。
直立した蜘蛛
眼に知性が感じられる。
相手も戸惑った様子だったが突然、叫ぶ。
「ここは神聖な場所だ。人間・・は、出て行け・・?」
出て行けと言うなら戻ろう。
私は背を向けた。

電撃!
白銀に輝く大型の蝶が追ってくる。
慌ててダッシュ。
電撃!
HPが1/3になる。
さらにダッシュして、橋を渡り、大回りしてグルに戻った。

グルのテレポ脇で、トワさんとエルフが話をしていた。
「ただいまです」
「おかえり。ファルク、どこ行ってきたの?」
「ケントの北西の橋を渡った森」
「エルフの森に行ったのか?」
♂エルフが声を上げる。
「始めまして。ファルクです」
「Venusです。逝っちゃった?」
「いえ、電撃2発受けたけど、逃げられました」
「ふむ、ファルク君くらいだと、2発も受けたら即死だけど、ねぇ」
Venusさんが不思議そうにする。
「まぁ、いいわ。BB荒地でクラハンにしよう(^^」
「BK荒地いくの?じゃ、装備換えなくちゃ」
「だめよ。クラハンなんだから(^^」
「あぅぅ、矢を取ってきます・・」
Venusさんが出かけていくと、トワさんが振り向く。
「ファルク、BB荒地行ったこと、あったっけ?」
「約束だから行ったことないです。」
「そっか。カオス神殿、ブックマークさせてあげるね」
トワさんが笑う。
Venusさんが戻ってくる。犬を引いている。
「あー、ずるい」
「いいじゃない、エルフで行くんだから」
「トワも取ってこよっと。ファルクはPOT補給して待ってて」
「え?ファルク君、犬なし?」
「騎士は単騎特攻が基本よ(^^」
道具屋に向かおうとする私に、Venusさんが声をかける。
「BB荒地にはグールが出るから、シアンPも買っておいてね」
店から戻ると、トワさんが帰っていた。
「他にだれかいないかな」
「ファインダー先輩が別キャラでいました」
「ファルク、連絡してみて」
>「ファインダー先輩、トワさんがBB荒地でクラハンするって」
>「了解、どのへん?」
>「カオス神殿ですって」
>「わかった」
「じゃ、しゅっぱーつ」
トワさんを中心にグルの門をくぐる。
わずかな距離をいくと、荒れ果てた平地に出た。
スケルトン、スケルトンアーチャー(骨弓)、スパルトイ、グール、ゾンビ
弓と魔法と犬で蹴散らしながら、北上する。
荒地の北に巨大な骨がドーム型に突き出ている。
「ここがカオス神殿ね。この北あたりにバグベアー(BB)が出るの。」
「ファルク君なら、ここより南なら、いい狩場になると思うよ」
二人にいろいろ教わりながら、犬と一緒に突進する。
と、Wizが声をかけてきた。
「よ、待ってた」
「あー、クラハンなのにー」
「だって、Wiz、育てたいんだものw」
「ま、いいわ(^^」
ゾンビの大群が向かってくる。
弓と魔法が手一杯になる。
そこにBBが襲ってきた。
身体が反応する。
私のRKSがBBにヒット。
真っ赤に輝きながら、どうにか撃破。
「ファルク、やったね(^^」
「POTゼロです」
「じゃ、帰還しよ」
「あい」

カオス神殿からグルに戻る道々、トワさんがファインダー先輩と話す。
「この頃、クランの新人、取ってないね」
「クラハン、少ないかな」
「これから、新人募集にいこうか?」
「これから?TI?」
「うん」
「じゃ、ファインダーに戻らなきゃ」
「なんでさ」
「クランの仕事だから(^^」
グルの街を突っ切り、船着場に向かう。
ちょうど出航するところ。
乗船して話していると、いきなりファインダー先輩が消えた。
「あれ?」
@「落ちたー」
@「戻れる?」
@「船、出ちゃったよ」
@「じゃ、テレポで来るのよ」
@「えー、高いよ」
@「TIで出迎えて(^^」
船でVenusさんにいろいろ話を聞く。
エルフなのに、ずいぶん詳しい。
新入隊でも、新人ではない。
TIの港でファインダーさんと落ち合って、テレポの脇に立つ。
が、みんな恥ずかしがって声が出ない。
ひとり、Venusさんは次々女性キャラに声をかけていく。
「あれ、勧誘?」
「ナンパだろ(笑)」
「慣れたもんだ」
「リアルの体験、かな(^^」
初対面の女性Wizと談笑するVenusさんの後ろで、ファインダー先輩とおしゃべり。
「リアルの体験と、ちがうよー(^^」
周囲にも笑いが広がる。
辺りが暗くなった頃、トワさんが1人の女性エルフと話し始めた。
自分は3rdだし、1stのプリに荷物を届ける途中だが、会えないでいるそうだ。
「じゃ、荷物を届けたら、自由なんだ」
「でも、3rdだから、あんまり来れないよ」
「うちは自由だし、戦争とかしないから」
「そうね、向こうのプリには迷惑かからないもんね」
入隊
「よろしくー」
「こちらこそー」
ほっとして、ファインダー先輩に話しかける。
「先輩、いつかさ」
「うん」
「龍、見にいきたいね」
「いつになるかなー」
「ずっと先だよね」
「タートルドラゴンでは^^;」
「カメじゃやだよ、Venusさんw」
トワさんが会話に混ざる。
「ファルク、龍を倒すのって、大変だよ」
「見るだけでいいんですw」
トワさんの顔つきが変わるのに、私は気がつかなかった。

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