風のファルク

 
第一章 その17 ゲラド師の試練
 
 

翌日、トワさんからWisが来た。
>「ファルク、おはよ」
>「おはようです〜」
>「あのね、これからトワを作り直すから、ね」
>「え?」
>「パラメータが気に入らないから、リメイク」
リメイクってキャラクタの作り直しの事だったんだ。
渓谷以来の謎が、ひとつ解けた。
>「クランも解散になるけど、気にしないで」
>「・・・はい」
>「Lv20になったら、すぐ呼ぶからね。2日ばかり自由にしてな」
@マークが黙り、思い出多いオレンジ色のTVマークが消えた。
緑色で221
みんなには「ホームズファンだから、ベーカー街221Bから」と言ってある、
試練の後つけてもらったタイトル(肩書き)も、消えた。
肩口が、寒い。
どことなく、心寂しい。
私はSKTへ足を向けた。
喧噪の広場を離れ、静かな一角へ足を向ける。
ふと、立ち止まる。
門衛が二人、気怠(けだる)そうに佇んでいる。
「ジョシュア卿、ザムザ卿!」
「よう、ファルク」
「なぜ?グンター師のところに居られたのでは?」
「ふ・・・クビ、さ(^^;」
「意見が合わなくて、な」
「・・・」
「それよりファルク、ゲラド師に会っていかないか?」
「でも、渓谷には入れません」
「この建物がゲラド師の館だ。今、居られるよ。挨拶していけ」
ジョシュア卿に導かれ、館に入る。
いくつもの扉を通り抜け、小さなホールで待つよう言われる。
周囲の壁には、いくつもの見慣れぬ戦利品。
ぼーっと眺めていると、扉が開いた。
「騎士見習い、か」
「お久しぶりです、ゲラド師」
「・・・誰だったかな?」
ジョシュア卿が耳打ちする。
ゲラド師の目が光る。
「あのファルクか。元気そうだな。」
「はい」

しばらく世間話をしていると、急にゲラド師が立ち上がった。
「ファルク、お前、第2の試練を受ける準備があるか?」
「グンター師の試練は合格しましたが・・」
「そうか・・・。若い見習が暇そうなのはよろしくない。試しに受けてみよ」
「はい」
「そう堅くなるな。要はウェアウルフを一頭、倒してみせるだけだ。」
ウェアウルフなら怖い敵では、ない。
大蜘蛛のほうがずっと強敵だ。
私の顔色を読んで、ゲラド師が続ける。
「お前程度でもウェアウルフは難しくあるまい。試練の内容は、敵を倒すことでは
ないのだ。お前の将来を得ることだ。
「SKTの外れに洞窟が一つある。その中に一人で入っていって、どこかの部屋に
閉じこめてあるウェアウルフを倒し、その牙を持ち帰れ。お前が儂に示すのは、
その牙だけで良い。
「お前に課すのは、それだけだ。あとは自分で感じ、考えよ」
それだけ言うと、ゲラド師はホールを出ていった。
館を出てSKT周囲をうろつくと、夕方頃北外れに洞窟を見つけた。
ガードが二人、番をしている。
中に入ろうとすると、呼び止められた。
「ゲラド師の許可を取ってきたか?」
「はい」
「・・・まだ、早いと思うが、まぁいい。だが、先客が入っている。順番を待て」
夕闇に眼を凝らすと、騎士見習いが待っている。
明らかな高位な人だ。
私は後ろに並ぶ。
異様に思ってよく見る。
分かった。
彼は軽装なのだ。
防具、武器はおろか、荷物袋さえ、身につけていない。
モンスターを狩るどころか、オークでさえ撃退が難しい。
前の男に声をかける。
「なぜ武装しないんです?」
「ん?聞いてないのか。この試練は本人の全身だけで受ける決まりなんだよ」
彼の知り合いらしい、周囲から苦笑が漏れる。
「装備をしていると、どうなるんです?」
「簡単さ、洞窟に入れないだけだ」

装備の全てを倉庫に預け、戻る。
順番待ちはなくなっていた。
ガードは無愛想に、洞窟の入り口へ通してくれた。
中は真っ暗だ。
微かに異臭が、ある。
中のガードがキャンドルとダガーを一つずつ手渡された。
私は礼を言って受け取った。
「これは返さなくてもいい。生きて戻って来ようが、そうでなかろうが」
キャンドルに灯を付け、辺りを照らす。
階段ホールから、四方に通路が分かれている。
ホールの端に両手を広げた骸骨が吊されている。
私は通路の一つを選び、角を曲がった。
ガゥッ
狼がいきなり噛みついてきた。
ダガーだけでは、狼も強敵だ。
揺れるキャンドルの明かりで攻撃が定まらない。
あちこち噛みつかれながら、どうにか撃退する。
息が、上がる。
疲労が抜けない。
最初の入り口を抜ける。
ガゥッ
また、狼が襲ってくる。
入り口を潜り、通路を曲がるたびに狼が襲ってくる。
何頭の狼を倒したか、分からない。
闇に輝く野獣の眼は、増えるばかり。
一旦後退。
しかし、道が分からない。
勘を頼りに戻る。
やはり無数の狼に襲われる。
眼が回り、頭が動かない。
揺れる視線の中に階段を見つけた。
追いすがる狼を振り切って、転がるように洞窟から逃げ出した。

洞窟の外は、すでに夜になっていた。
地面に倒れ伏して、休憩。
どうにか元気を取り戻し、洞窟に戻ろうとした時、ガードが声をかけてきた。
「ゲラド師の言葉を聞いてなかったのか?洞窟内には何も持ち込んではならない」
狼を倒した時手に入れた少なからぬアデナや宝石、毛皮からキャンドルやダガーまで
没収された。
再び身一つで洞窟に戻り、キャンドルとダガーを受け取る。
やはり異臭がある。
息を細めて、深く吸わないよう注意する。
今度は道を覚えながら、進む。
息を殺しながらの戦闘は、かなりきつい。
何度も外へ待避しながら、洞窟探査を続ける。
いくつもの行き止まり。
羊皮紙を拾った事もある。
流れる血で、覚えている限りを【地図】にする。
どうせ、次には持って入れないのだが・・。
キャンドルの灯りを、キラリっと反射した物が落ちていた。

これがウェアウルフの部屋の鍵か。
拾い上げるのもつらいほど、だるい。
戻り道の最初の角で狼に襲われた。
倒す力は残っていない。
逃げようとする。
狼が何頭も寄ってくる。
倒す間もなく囲まれ、抵抗する。

そのまま意識を失った。

気が付くとSKTの広場
立ち上がる気力も、ない。
へたり込んでいると、聞き覚えのある声がした。
「ファルク、こんなところに座って、なにしてるの?」
トワさん!
「ゲラド師の試練を受けて来たんです。」
「え〜!で、どうだった?」
「どうにもなりませんでした」
「まぁ、頑張って(^^」
「鍵を見つけるのが、精一杯(;;)」
「ファルク、レベルいくつ?」
「21です」
「あはは、まだ無理よね。普通40位の人が受けるんだもの。あれは何度でも受けられ
るから、今日は休みなさいね」
去りゆこうとするトワさんが、振り返る。
「そうだ。明日、クラン復活させるから、ちゃんと来るんだよ(^^」
私がその言葉を理解する前に、トワさんは出かけて行ってしまった。

その16 エルフへ    その18 引退式へ