風のファルク
|
約束通り、トワさんに会いにTIに出かける。
もうファインダー先輩は登録を済ませていた。
しかし
明らかに連絡の付かなかったクラン員の方が多い。
隙間だらけの名簿。
トワさんの横顔が、寂しげ。
「さて、再開記念クラハン、しようか(^^)」
「・・ファインダー先輩、居ませんよ」
「ファルクと二人でいいよ^^」
TIの町を出て、修練場を通り過ぎる。
岩壁に隠された洞窟
通称TIC
「ファルク、入ったことあったっけ?」
「ないです」
「じゃ、案内するね。ゴー^^」
内部は入り組んだ迷路。
私は一応、騎士として、通路の角毎、通り抜ける部屋毎に注意を払う。
が
トワさんは、まるで野原の散歩のようにヒョイヒョイ抜けていく。
追いつくのが大変。
「トワさん、危ないから下がって」
「何言ってるの、このくらいで^^」
オークファイター(オークF)、ゾンビ、ストーンゴーレム(岩ゴレ)をあしらいながら
洞窟の奥へ進む。
深部に階段を見つける。
「ファルク、ここからが本番よ」

トワさんの先にたって、階段を下りる。
石敷きの遺跡のようなホールに出る。
青銅の壊れかけた大扉。
そこから斧を持ったスケルトン(骨斧)が駆け寄ってきた。
強い!
あきらかにいつものスケルトンとは、違う。
骨斧と、力比べになる。
押し返し、押し戻される。
別の、弓を持ったスケルトン(骨弓)が這い出してこようとする。
弓がなり、矢が私の鎧に弾かれる。
トワさんは私の横をすり抜けると、青銅の大扉を閉めようとする。
何箇所か手傷を負いながらも、骨斧を倒す。
トワさんを手伝って、扉を閉める。
「・・はは(^^;」
暗がりでトワさんが笑う。
壁の警告文。
「禁じられた事を可能にする道は3つ:
一つ目 遠く険しくとも正直に進む道。
二つ目 簡単にいけるが不正な道。不正な道を行く者には最後には災いが待っている
だろう。
三つ目 隠された道。鍵は箱の中にある。そして死もやはり箱の中に」
「ファルク、判る?」
「・・・」
ホールを抜けると、鍵のかかった扉。
さらに進むと、小さな部屋に階段がひとつ。
部屋に足を踏み入れると、壁から矢が連射してくる。
一旦後退。
あっ
「わかった」
「ん?」
「最初の、骨が出てきた扉が、第一の道。鍵のかかった扉が第三の道。これが第二の道
なんだ!」
「ふむ・・。行ってみようか?」
「はい」
降り注ぐ矢を払いながら、階段を下りる。
出た先で、またしても矢の雨。
「ファルク、こっちよ」
もうひとつの階段を無視して、小部屋を出る。
そこには骨弓が待ち構えていた。
弓なりがし、矢が刺さる。
突進して切り結ぶ。
トワさんのシルバーロングソード(SLS)が援護してくれる。
撃退。
次の戸口を、トワさんが潜る。
後に続こうとするが、どうしても入れない。
いろいろアドバイスをもらったが、どうにもならない。
そのうち、応答できなくなった。

気がつくとTIの町。
@「ファルク、大丈夫?」
@「いま、TIです。なんだったんでしょう?」
@「・・落ちたのよ(^^」
これが回線断というものか。
戦闘中だったら大変なことになるところだった。
@「今日はお開きにしようね」
@「残念です」
@「この次は、あの奥を教えてあげるね^^」
それからしばらくは、TIで骨狩りして過ごした。
東の海岸で、南の荒地で、TICで。
その日も南の荒地に向かっていた。
狩場に着いたとき、ワールドチャット(全チャ)に衝撃が走った。
<ケリーママの引退式を行ないます。知人の方はケントに集まってください>
見間違い?
確認するには、出かけるしかない。
船はおろか、TIに戻るのさえ間に合わない。
わずかなb−テレの一枚を使って、ケントに飛んだ。
犬小屋に犬を預け、ケリーママがよくいた辺りを歩き回る。
何時にもまして人だかり。
みな、静かな悲しみにうな垂れている。
ママに良く似た、アイリスというWizが手を振る。
話しかけようとした時、集団がアイリスさんを中心に移動し始めた。
目指す先はぶどう園。
1人のエルフ女性が話し始める。
「ケリーママは、ある事情から、このワールドを引退することになりました。」
見間違いではなかった。
話は続いているが、ショックで耳に入らない。
「・・では、引退の前にケリーママの結婚式を行ないます」
悲しみの舞台が、一瞬にして華やぐ。
歓声が上がる。
少し離れたところから、見事なオーラを纏った、プリンスが歩み来る。
Jingaさん
動きに、言葉に、力があり、輝きがある。
おぉ
これが、真に【プリンス】という存在だ、と直感した。
誓いの口付けが交わされる。
祝砲代わりに魔法が辺りを彩る。
騎士を目指し、魔法の使えないことを、この時ばかりは悔やんだ。
アイリスさんが話し始める。
「みんなありがとう。ケリーママはもう、消しました。もう二度と戻れないでしょう。
私のために集まってくれた、大事なお友達たち。ケリーママは幸せです。
私のことは忘れても、お互いの友情は、・・忘れないで」
「私たちは、ケリーママを忘れない!」
周囲の高位者を跳ね除けて、大声で叫ぶ。
アイリス(ケリーママ)が、涙に濡れた眼を向け、微笑んでくれる。
「今まで本当に、ありがとう。・・私、・・もう、・・いくね」
ケリーママが、消えた。
周囲で涙が流れ、嗚咽が広がる。
Jinga皇子が話し始めた。
「ケリーママは、このワールドが嫌で、去ったのではありません。すべては過日のEZ/TVの報道にあるのです。」
EZ/TV
私も、見た。
隣国の情報が、流れていた。
リアルの小動物を追い回す実写シーン。
記者のキャラを、あるいは無視し、あるいは殺すシーン。
大規模な戦争で殺しあう様を、誇らしげに語るシーン。
「ケリーママは、あんなワールドにいることは子どもの教育に良くない、とリアルの
家族に反対されたのです。そして、急な引退、となったのです。」
周囲は驚きと怒りの声で満ちてきた。
私は思わず、叫んだ。
「あんな報道に惑わされない、いつでもケリーママが帰ってこれるリネージュを作ろう!」
賛同の声と拍手が起こる。
気がつくと、隣にトワさんが、いた。
「ファルクはケリーママ、好きだった?」
「はい」
「トワも、だよ」
「・・・私の221は・・ケリーママの友達番号なんです」
トワさんの瞳が見開かれ、顔色が失せる。
「私は、ケリーママの悲劇を繰り返さない、そんなワールドを探る旅を始めます。」
「・・どっか行くの?」
「どこも、行きません。ここで探します。」
自分の目標を見つけた興奮。
私はトワさんを見ていなかった。
視線は、輝くJinga皇子に向けられていた。
いつの間にか、トワさんは去っていた。 |
その17 ゲラド師の試練へ その19 おれんぢTVへ